2018年10月20日、日本で初の水星探査機が打ち上げに成功しましたね。
探査機の名前は「みお」
今回の打ち上げは欧州の宇宙機関(ESA)と宇宙開発機構(JAXA)が協力して進めているBepiColombo(ベピコロンボ)計画で、JAXAは「みお」、ESAは「MPO」の2機での探査機で水星探査をすることになっているようで、経費削減や効率を考えて一つのロケットで打ち上げたのでしょう。
そのライブ映像がこちら
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出典:国際水星探査計画BepiColombo/アリアン5型ロケット打上げライブ中継
驚いたのは水星まで7年もかかるというもの。
火星まで8ヶ月かかることは知られていますが、たいして距離が変わらない水星に到達するまで何故、7年もかかるのか・・・
今回は水星まで到達するのに7年もかかる理由を調べてみました。
水星の基礎データ
水星は太陽系第一惑星で、地球と同じ岩石惑星です。
直径は地球の4割程度で月より少しだけ大きい程度しかなく、太陽系では一番小さな惑星です。
自転周期は58.65日、公転周期は87.969日、太陽からの距離は5,791万kmとなっています。
ちなみに太陽から地球までの距離は1億4960万km。
1974年にはマリナー10号、2008年にはメッセンジャーの2機の探査機が水星に送られており、様々な観測が行われてきました。
大気はわずかながら存在が確認されていますが、気温も昼は400度、夜にはマイナス160度にもなる過酷な環境化におかれています。
その小さな水星にも地球と同じく磁場が確認されています。
地上から見る水星の明るさはおよそ0等級ですが、地上からは山や建物、雲にさえぎられることが多くなかなか観測できませんが、最大離隔の時を狙って条件が整えば観測することは可能です。
私も一度だけ観測に成功したことがあります。
水星までの距離は火星までの距離とさほど変わらない
気になる地球からの距離ですが、比較のためにも他の惑星のデータも見てみましょう
太陽からの距離=平均公転半径とします。
天体名 | 直径(Km) | 公転半径(Km) | 公転半径(AU) |
太陽 | 1,400,000 | – | – |
水星 | 4,900 | 57,910,000 | 0.39 |
金星 | 12,100 | 108,200,000 | 0.72 |
地球 | 12,700 | 149,600,000 | 1 |
火星 | 6,800 | 227,900,000 | 1.52 |
木星 | 139,800 | 778,300,000 | 5.20 |
土星 | 116,500 | 1,429,400,000 | 9.55 |
天王星 | 50,700 | 2,875,000,000 | 19.22 |
海王星 | 49,200 | 4,504,400,000 | 30.11 |
AUは天文単位のことで、太陽から地球までの距離を1としたもの。
この表から距離を計算すると地球から水星までの距離は天文単位で0.61AUです。
一方、地球から火星までの距離は0.52AUです。
地球から火星までの距離は0.52AUで8ヶ月かかるとされていますから、地球から水星までの距離は天文単位で0.61AUによる単純計算ではせいぜい10ヶ月で到達できそうなものです。
それが7年もかかるというのはいったいどのような理由なのでしょうか?
水星の周回軌道に乗せるのに減速するため時間がかかる
通常探査機を打ち上げる場合は地球の公転速度が加わっているために太陽系の外側に向かっていきます。
水星は地球よりも内側にあるためにまずは減速をしなければなりません。
それならロケットエンジンを使って減速させれば良いのではないかと考えますが、エンジンを稼動させるには燃料が必要になります。
ちなみに木星まで到達させるよりも水星に到達させるほうが燃料が多く必要なのだそうです。
上の表を見ると地球から木星までは4.20AUと水星の7倍近くもの距離があります。
それなのに水星まで到達させるほうが燃料が多く必要になるのです。
現在のロケット打ち上げ技術では、搭載しているタンクの燃料が1kg増えるごとに打ち上げ費用は100万円増えるそうです。
総重量が280kgの水星探査機「みお」は現在の状態でどれだけの燃料を積んでいるのかわかりませんが、木星に到達させるよりも多くの燃料を積むことは経費や安全性を考えて否定されたと考えられます。
しかも今回は水星の近くを通過するのではなく、水星の周回軌道に乗せる必要があります。
それだけ減速が必要になるということです。
計9回ものスイングバイで水星の周回軌道に乗せる
燃料に制限がある中で水星まで到達させるにはスイングバイを利用することで可能となります。
通常スイングバイは加速させるために利用することが多いのですが、減速させるときにも利用されます。
今回の水星探査では次のようなスイングバイで減速させて水星の周回軌道に乗せるとされています。
地球で一回
金星で2回
水星で6回
の計9回ものスイングバイで減速します。
わかりやすい動画があります。
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出典:国際水星探査計画「ベピコロンボ」
これまで探査で水星の周回軌道に乗せたのは一回だけ
以上の理由により、水星や金星といった内惑星の探査は、火星や木星などの外惑星よりも非常に困難であることがわかったと思います。
このような理由から太陽に最も近くを公転している水星に探査機を送ったのはこれまでたったの2回だけ。
それが「マリナー10号」と「メッセンジャー」です。
しかも周回軌道に乗せたのは2008年に打ち上げられたメッセンジャーだけです。
月にそっくりな水星の姿を見て驚いた方も多かったそうですね。
この時も水星の周回軌道に乗せるまで約7年近くかかっています。
太陽を何週もしてスイングバイを繰り返しながらしか到達できない現状は何ともじれったいですよね。
今後は到達期間がもっと短縮できるようなロケットエンジンを開発してほしいものです。
宇宙開発も日進月歩の感がありますが、内惑星の探査においてはまだまだ途上段階のようですね。
水星の大きな謎は磁場が存在すること
ちなみに今回の水星探査は磁場の存在をはじめとした鉱物の組成などの調べることになっているようです。
もっとも大きな謎というのが「磁場」です。
その理由というのが、小さな水星にも磁場が存在するということ。
というのも月や火星には磁場がありません。
どちらも質量の小ささから内部が冷えて対流が滞っているため磁場が発生しないという考え方があるからです。
ところが水星は火星よりも小さいにもかかわらず、火星のように内部が冷えて固まっていないのかもしれないというわけです。
そこらあたりを今回の探査で詳細に測定して水星に磁場が存在している原因を突き止めたいと考えているのでしょう。
水星探査は太陽系外惑星探査に役立てられる
今回の水星探査にはどのような意義があるのかと思ったら、どうやら太陽系外惑星の探査に役立てようとの計画があるようです。
そういえばここ数年で太陽系外惑星が4000個以上も発見されていますが、その多くが赤色矮星系の惑星ですよね。
赤色矮星とは太陽よりも質量が小さく表面温度も3千度と低い温度で知られています。
質量が小さいために核融合反応もゆっくりと進むために質量の大きな恒星よりも寿命が長いとされています。
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そのため赤色矮星系の惑星には生命存在の可能性が高いと考えられています。
ただし、赤色矮星系の惑星は水星よりも恒星に近い位置を公転しているために強烈な恒星風に晒されていると考えられます。
恒星風から生命体を守るには磁場が必要となりますから、まずは身近な水星を調査することが太陽系外惑星探査へのステップになると考えているようです。
身近な水星とはいえ周回軌道に乗せるために7年もかけて探査をするのはこうした理由があったんですね。