夏になると「台風」という言葉をよく耳にします。
猛烈な風や雨量はこれまでも各地に大きな被害をもたらし、私達の記憶の中に刻まれてきました。
そんな台風は南海上で発生しては毎年いくつか上陸して大きな被害を出すことがありますが、台風もいずれは衰えて熱帯低気圧となりやがて消えていきます。
私達は台風の勢力が衰えて熱帯低気圧に変化すると何となく安心してしまいますが、本当に心配する必要は無いのでしょうか?
今回は熱帯低気圧についてお話してみたいと思います。
熱帯低気圧でも中身は台風と同じ
台風は南海上において、海水が太陽の熱で温められて発生した水蒸気が集まって出来るものですが、発生時の殆どはまだ勢力が弱く熱帯低気圧と呼ばれています。
これがさらに水蒸気を吸収してエネルギーを蓄えることで勢力を増し、中心付近の最大風速が秒速17.2m以上になった時点で台風と呼ばれることになります。
つまり台風も熱帯低気圧も構造は全く同じで、勢力の差に違いがあるだけなのです。
熱帯低気圧なら心配無いというイメージがある
天気予報を見ていると必ず台風の気圧を発表していますが、その数値が低いほど強い台風であることはよく知られていますよね。
単位をhPa(ヘクトパスカル)で表しますが、台風ともなると「中心気圧は950ヘクトパスカル」といった殆どが900代で、稀に800代の台風もあるようです。
日本でも最大級の伊勢湾台風の最低気圧は894mb(昔はミリバールを使っていた、hPaでも数値は同じ)を観測されたとの報告もあり、今の台風がどれくらい怖いのかが気圧によってある程度判断できます。
そんな大型台風も発生した時には殆どが熱帯低気圧で最大風速が17m/s以上になると台風と呼ばれるようになりますが、逆に台風の最大風速が17m/s未満になれば熱帯低気圧と呼ばれるようになります。
天気予報で「台風の勢力が衰えて熱帯低気圧に変わった」という表現が使われることが多いですよね。
こういった表現で私達が受け取る印象が「熱帯低気圧なら心配無い」となっているのではないでしょうか?
熱帯低気圧で死亡者が出たことがある
熱帯低気圧なら心配無いといったイメージが大きな災害に結び付いたことがあります。
日本では河川の中州でテントを張ってキャンプをしていたグループが、熱帯低気圧による豪雨の影響で流されて多くの犠牲者を出した事例があります。
たしか10人以上は犠牲になったはずです。
これは熱帯低気圧による豪雨のために上流のダムの水位が基準値を超えたことからやむをえず放流したためで、事前に警告を受けていたのを無視したために起こった事故でした。
天気予報では熱帯低気圧の接近で注意は促していたにもかかわらずです。
しかし犠牲になったグループは台風が衰え熱帯低気圧になったので大丈夫だろうと鷹をくくっていたようです。
もしこのグループの中に熱帯低気圧の怖さを知っている人が一人でもいたらこんな大惨事にはならなかったはずです。
中国でも69人が熱帯低気圧で犠牲に
世界に目を向ければ中国でも熱帯低気圧により多くの犠牲者を出しています。
2016年7月15日、台湾に大きな被害をもたらした台風1号の勢力が衰えて熱帯低気圧の影響で中国の福建省で69人もの犠牲者が出たとの報告もあります。
2016年8月8日、メキシコ東部では熱帯低気圧による地滑りで38人が死亡したとの報告もあります。
調べればもっとたくさんあると思いますが、昨年だけで世界でこれだけの犠牲者が出ていることからすれば、熱帯低気圧といえども侮れないのが判るでしょう。
熱帯低気圧が前線を刺激して大雨に
梅雨時になると日本の本州は梅雨前線に覆われますが、梅雨末期になると台風が接近して梅雨前線を刺激して大雨を降らすことがありますよね。
これは台風からの温かく湿った空気を梅雨前線に送り込むために活動が活発になるためで、大雨をもたらすことが多いのです。
熱帯低気圧も構造は台風と同じですから梅雨前線を刺激して大雨を降らすことがあります。
昔は弱い熱帯低気圧と表現していた
気象庁によれば、過去に熱帯低気圧に対して「弱い熱帯低気圧」と表現していたのを、「弱い」と付け加えることで誤解を招く恐れがあることから中心付近の最大風速が秒速17m未満になったものを「弱い」という形容詞を削除して「熱帯低気圧」と表現することにしたそうです。
つまり熱帯低気圧でも警戒しなければならないということですね。
熱帯低気圧は台風の勢力が衰えて呼び名が変わっただけで、強風や大雨をもたらす可能性は否定できません。
これから夏に向けて山や海などのレジャーを計画している方は熱帯低気圧の危険性を頭の片隅にでも置いといてくださいね。