毎年冬になると天気予報で「放射冷却」と呼ばれる気象用語を耳にすることが多くなりますよね。
「明日の朝は寒くなるぞ」って言われているようで、なかなか布団から出られなくなる人も多いようです。
水溜りには氷が張り、白い息を吐きながら背中を丸めて歩く人の姿は、冬の風物詩ともいえるでしょう。
耳にするだけで起きるのが辛くなる「放射冷却」
しかし何故か夏には聞くことがありませんよね。
実は夏にも放射冷却という現象は起きているのです。
今回は放射冷却についてのお話です。
放射冷却は物が熱を放出して冷えていく現象
放射冷却は全ての物が時間とともに徐々に冷えていく現象のことです。
たとえば温まったコーヒーや紅茶のカップをそのまま放置しておくとやがて冷たくなっていきますよね。
これがカップの放射冷却です。
放射冷却現象が見られる全ての物の中には地球も含まれ、宇宙空間に熱が放出され冷えていくのが地球の放射冷却現象なのです。
放射冷却は冬の朝方によく実感できる現象で、日中温められた地面の熱が、気象条件が揃った夜間に放出され易いとされています。
放射冷却が無いと地球は灼熱地獄になる
寒い冬にはなるべく避けたい放射冷却現象ですが、地球の温暖な気候も放射冷却現象があってのことなのです。
もし地球に放射冷却現象が無くなれば、金星のように灼熱地獄になるはずで、地上にこもった熱を宇宙に逃がす重要な役割でもあるのです。
詳しい解説はこちら:金星の温度が470℃と高くなってしまった理由
現在地球の平均気温は15℃となっているようですが、15℃を保っていられるのも放射冷却により日中に温められた余分な熱が宇宙に逃げているからなのです。
放射冷却は夏でも起こる
放射冷却は冬にしか聞かないことから、夏には起こらない現象と考えがちですが、実は一年中起きている現象で真夏でも条件さえ揃えば起きているのです。
天気予報でも夏に「放射冷却」という言葉を聞くことはありませんが、この言葉を使わないのは肌で感じにくいからです。
つまり真夏に「冷却」という言葉を使っても涼しくて快適になると勘違いされてしまうからと考えられます。
これでは使用する意義が感じられませんからね。
冬に「放射冷却」という言葉を使用することで、体調管理や水道管の破裂や水溜りが凍ることで転倒しないようにと注意喚起をすることが出来ます。
放射冷却は天気が良いほど顕著になる
放射冷却は気象条件が整うことでよく見られます。
それが良く晴れて風が無くなる夜間です。
何故かといえば、雲が多いと熱が宇宙に逃げることを防いでしまうからです。
地球上で放射冷却現象が顕著に見られる地域というのが砂漠地帯です。
すでに述べたとおり、放射冷却は雲に覆われていると熱の放出が妨げられて起きません。
雲は水蒸気の塊ですから乾燥している地域では発生しにくいのです。
砂漠地帯は乾燥していますから大気中の水蒸気量が極端に少ないので昼間に温められた地面にこもった熱も、水蒸気にあたる量が少ないので、それだけ逃げて行きやすくなります。
砂漠地域の昼夜での温度差が激しいのは乾燥していることが大きな要因なのです。
放射冷却は風が強いと起こらない
また風が強い夜間も放射冷却が起こらないとされています。
風が強いほうが寒くなるイメージがありますが、実はその逆で放射冷却は風が弱い方が起きやすいのです。
その理由は放射冷却が起きて上空の暖かい空気が下に降りてくるため、周りの空気と混ざり地面の温度はさほど下がらないとされています。
なので天気予報ではお決まりのように
「風が無い晴れ上がった夜間のため冷え込みは厳しくなるでしょう」
となるわけです。
カメラのレンズも放射冷却により曇ってしまう。
天体写真の撮影を夜通ししているとカメラに結露が生じて曇ってしまうことがあります。
これも放射冷却による現象で、カメラのレンズが熱を放出して周りの気温よりも低くなってしまい曇ってしまうのです。
最近のカメラは専用のヒーターが付いているものもありさほど心配する必要はありませんが、一昔のカメラにはそのような設備は整っておらず自分で対策を考えなければなりませんでした。
私が高校生の頃にそのような設備を整える費用も無かったため、カイロを持参して撮影の合間にレンズの部分を温めるなどの工夫をしていたものです。
もっとも夜通し天体写真を撮影するような元気は無かったので、寒さを我慢する以外はさほど放射冷却に悩まされることはありませんでしたが・・・