ブラックホール

2019年4月11日にブラックホールの姿が公開されて大きな話題になりましたが、天の川銀河中心の超大質量ブラックホールの動画撮影に挑むとの報道がありました。

前回初めて撮影に成功したブラックホールは地球から5500万光年離れたM87星雲の中心にある超大質量ブラックホールでしたが、大きさは直径約400億kmという巨大さでした。

それに比べて天の川銀河中心の超大質量ブラックホール(いて座A*)は地球から26000光年と非常に近いとはいえ、直径は約2600万kmと遥かに小さいことから撮影は困難とされています。

そのため静止画像ではなく動画の撮影に挑むというのです。

いったいどうやって撮影するのでしょうか?

今回は天の川銀河中心の超大質量ブラックホールの動画撮影について調べてみたのでご紹介します。

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地球規模の口径の電波望遠鏡で観測

天体望遠鏡で観測する場合、口径が大きいほど解像度を上げることが出来ます。

これは口径が大きいほど多くの光を取り込めるため拡大したときに光が不足しないためです。

これは天体望遠鏡で惑星を見たときにハッキリとその差が分かります。

たとえば口径が60mmの初心者向け天体望遠鏡で木星を観測したときの横縞は、倍率を上げれば上げるほどぼやけてしまいます。

これは横縞模様をハッキリと大きく見るだけの性能が不足しているわけで、口径が60mmという小ささが主な要因となっています。

口径が200mmもあればより詳細な横縞模様が観られますからいかに口径が重要であるかがわかります。

電波望遠鏡も同じことで、口径を大きくすればするほど被写体はハッキリと見えるようになります。

ところが一つの電波望遠鏡を大きなものにするにも限界がありますから、今回のように世界各地の電波望遠鏡を利用して地球規模の“仮想大口径電波望遠鏡”で観測するようになったわけです。

世界でも有名な「アルマ望遠鏡」をはじめ、ハワイ、メキシコ、南極など、計8箇所の電波望遠鏡が参加しています。

イベント・ホライズン・テレスコープ
出典: NRAO/AUI/NSF

この共同作業は「イベント・ホライズン・テレスコープ(EHT)」と称する国際協力プロジェクトで、携わった研究者も世界中から206名参加しており、そのうちの8名が日本人とのこと。

ただ、残念なことに位置的に他の電波望遠鏡と同時観測が不可能なため、日本の電波望遠鏡は使われていないそうです。

ちなみに「イベント・ホライズン・テレスコープ」という呼び名は「事象の地平面」のスケールまで見分けられる画像を撮影することを目標にするという意味で付けられたそうです。

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実はいて座A*の撮影は完了している

いて座A*

報道によれば、いて座A*の動画撮影に挑むとのことでしたので、これから撮影にかかるものだと思っていましたが、よく調べてみたところ、実はすでに撮影は完了していて、何らかの理由でデータの解析に手間取っている模様で、近いうちに発表されるのではないかとの憶測が飛び交っているようです。

何故手間取っているのかというと、それだけいて座A*を遮る天体が多いということなのだそうです。

そもそもこうしたブラックホールを観測する場合には、ミリ波が使用されているそうで、その理由はブラックホールに飲み込まれる際に高温になったガスが最もよく輝いて観測できるのと、暗黒星雲などの物質や地球の大気などに妨げられることが無いので観測に適した電波だからです。

このミリ波を複数台の電波望遠鏡で捉えたデータを解析することでブラックホールが可視化できるそうですが、いて座A*はM87ブラックホールよりも周囲の動きが速いことなどそれだけデータが増えることが理由だそうです。

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実はM87星雲ブラックホールよりもいて座A*の方が大きく見える

世界で初めて撮影に成功したとされるM87星雲ブラックホールはその大きさから可能になったとの認識が多いですが、実は大きさからしたらいて座A*の方が大きく見えるのです。

その比較データをご覧ください。

M87ブラックホール いて座A*
質量 太陽の約65億倍 太陽の約400万倍
距離 約5500万光年 約2.5万光年
視半径 4~8マイクロ秒角
(5~10億分の1度)
10マイクロ秒角
(4億分の1度)
見た目の大きさ
(必要とする解像度)
月面にあるゴルフボール 月面にあるソフトボール

ご覧のようにいて座A*の方が遥かに大きく見えることがお分かりいただけると思います。

といっても月面に置いたソフトボールを見分けられるだけの性能が必要になるわけですから、そう簡単にはいきません。

さらにいて座A*はM87ブラックホールに比べて時間変動が速く、地球との間に別のプラズマガスが存在しているために電波の散乱が生じることから解析が困難とされています。

そのため、解析しやすいM87ブラックホールを先に発表したというわけです。

ちなみにいて座A*のデータ解析は現在も慎重に進められているとのことで、いずれは公の場で発表されるときがくると思われます。

動画で分かりやすく解説:BBC 神秘の大宇宙 DVD全9巻

撮影ではなくデータを元に画像を合成

先日もそうでしたが、世界で初めてブラックホールの撮影に成功と発表されましたが、実は撮影ではなくブラックホール周辺の天体から発せられる電波のデータをコンピューターで解析して画像を合成しているのです。

そのイメージが分かりやすいシミュレーションCGがあります。

出典:国立天文台

もちろん今回も動画の撮影とされていますが、こちらも収集したデータを元に動画を合成することになっているはずです。

ただし合成といっても、M87のブラックホール画像の発表まで2年もかかったのはそれだけ多くのデータを解析しなければならないためで、宇宙望遠鏡のように見たままを撮影するのとはわけが違うのです。

いて座A*はそれよりもさらに難しいとされているため解析に時間がかかるのでしょう。

いて座A*の画像が発表される日が待ち遠しいですが、前回とは違って今度は動画の予定となっていますからよりリアルなブラックホールの姿が見られるかもしれません。