地球を取り巻く環境は常に変化し、宇宙開発も進むにつれて干からびた姿になった金星や火星を見るにつけ、やがて地球も同じ運命を辿るのではないかと考えてしまうのも自然な発想です。
そんな危機感を持ってか太陽系外惑星の発見も非常に多くなってきており、人類移住も視野に入れた惑星探査も進みつつあります。
しかし仮に移住先が見つかっても多くの人が移住となれば様々な問題が発生することも避けられません。
その中でも大きな問題の一つとなっているのが「出産」です。
ただでさえ女性にとって大変な作業を、何と宇宙で出産できるのかが検討されています。
それを計画しているのがオランダに本社がある「スペースライフ・オリジン」という企業。
打ち上げ予定は2024年、5年後と割りと近い将来ということになりますが、本当に大丈夫なんでしょうか?
今回は宇宙での出産について考えてみたいと思います。
宇宙での出産は動物実験で実証済み
何でもそうですが、人間が使用する前にはまず、動物実験で安全性を確かめます。
今回の実験においてもすでに動物での実験は済ませているようで、とりあえずは出産は可能とされているようです。
その動物とはメダカ、ラット、トカゲ、無脊椎動物。
いずれも実験は成功しているものの、ラットに関しては生まれた赤ちゃんの内耳にある「前庭系」と呼ばれる器官が未発達だったそうです。
「前庭系」は方向感覚やバランス感覚を司る器官のため、ここが未発達だと歩行に異常をきたすことも考えられるそうです。
しかし時間が経つにつれ回復してくるとされるためさほど心配する必要は無いのかもしれません。
こうした事実により出産というのは重力が必要ではないかと推測されているようです。
また、赤ちゃんが産道から押し出されるために重力が必要とされ、さらに出産の痛みを緩和する麻酔の使用も難しくなるのだとか。
妊婦が受ける放射線量
宇宙に滞在するときに気をつけないといけないのが放射線量です。
この計画では地上400km上空で行われる予定ですが、放射線を遮る大気の無いところでの作業となりますから、当然放射線を浴び易くなります。
放射線を過多に浴びるとDNAが傷つき癌を発症する可能性が高まります。
これは細胞分裂が活発な赤ちゃんほど影響を受け易いとされ、地上でも1年で1メリシーベルト以下と推奨されています。
よく病院に行くとレントゲン写真を撮るときに妊娠の可能性を聞かれますよね。
妊娠の可能性があるとレントゲン撮影はしてもらえません。
これはレントゲンで使用する放射線が胎児に悪影響を与えるからです。
では、地上400kmの宇宙ではどのくらい放射線に浴びているのかというと、1日で1メリシーベルトだそうで、地上の180倍の放射線を浴びることになるそうです。
地上の180倍という放射線量による胎児への悪影響のことを考えると、少しでも滞在期間を短縮するべきだと思いますが果たしてどのくらい滞在するのでしょうか?
まさか臨月の妊婦をロケットに乗せて打ち上げるなんてしないと思いますが・・・
無重力によりカルシウムが溶け出す
国際宇宙ステーションに長期間滞在すると無重力状態により体内のカルシウムが溶け出して骨密度が減少することが確認されています。
この原因は体内の「破骨細胞」が活発になることが原因とされ、この作用が赤ちゃんにどのように作用するのかはまだ確認されていないようです。
そのために宇宙飛行士は滞在中の筋トレが義務付けられています。
赤ちゃんに筋トレをさせることは出来ないためカルシウムの流出をどのように防ぐのかが課題になります。
出産だけではない地球への帰還が大問題
仮に宇宙での出産が上手く行ったとしても、いずれは地球に帰還させなければなりません。
出産食後の一ヶ月は安静にしていなければ母体に悪いとされているように、過激な動きは控えなければなりません。
しかし地球に帰還するとなれば宇宙飛行にとって最も危険とされる「大気圏再突入」が待っています。
聞くところによればかなり激しい振動に見舞われるとの事で、母体や赤ちゃんにとってかなりの難関になることは間違いありません。
そこをどうやってクリアさせるのか今後の課題といえるでしょう。
そもそも妊婦をロケットに乗せて地上の3倍もの重力が身重の体にのしかかるわけですから、お腹の赤ちゃんに万が一のことも考えてあげなければなりません。
宇宙で生まれたら国籍は?
人が生まれたときに国籍はその国の決まりによって決定されます。
大まかに言うとアメリカ人が日本で出産した場合にはアメリカの国籍が取得できますが、これがアメリカとなると話は違ってきます。
というのもアメリカは生まれた国で国籍が決められるからです。
つまり両親が日本の国籍を持っていても、アメリカで出産すれば生まれた子の国籍は「アメリカ」となります。
それでは宇宙で生まれた赤ちゃんはどうなるのか・・・
出産設備を作成した国の決まりに従うのか、それとも母親の国の決まりに従うのか、あるいは「宇宙」という項目を作るのか・・・
これぞ正に「宇宙人」?
宇宙での出産における責任の所在
宇宙での出産においては胎児の意思が働くはずも無く、全ては母親とその家族に委ねられます。
子供の一生がかかっている作業を勝手に大人たちが決めることが同義的に許されるのか・・・
無重力で出産といった一連の作業により子供の方に後遺症が出て生活に支障をきたすようになったらどうやって責任をとるのか・・・
課題は山積しています。
しかし人類の移住においてこうした出産方法は乗り越えないといけない試練といえるかもしれません。
無事に宇宙で赤ちゃんが生まれることを願うばかりです。