油井宇宙飛行士が8/16日に打ち上げられる「こおのとり」5号機をロボットアームを操作してドッキングさせることが決まっていますが、そのドッキング方法が日本独自の方法ということはご存知ですか?
実はこれこそが日本の物造りを象徴するかのような出来事があったそうなんです。
日本が新たに補給船を作りドッキングさせることを提案
今から20年前、アメリカの呼びかけで国際宇宙ステーションの計画が持ち上がり、そこに日本が参加したものの資金を提供するだけにとどまっていたことから脱却すべく日本独自で補給船を作ることを計画したとのこと。
補給船は国際宇宙ステーションへ食糧や衣料、研究機材などの物資を運ぶ重要な役目を担う宇宙の連絡船です。
何人もの宇宙飛行士が長期滞在してミッションを行うため、常に補給品を供給しなければならないという認識から生まれたもので、以前はロシアの「プログレス」だけが運用されていました。
ただ日本が補給船を作るのはいいとして、ドッキングをすることにアメリカのNASAが懸念を示したそうです。
というのは、ドッキングの仕方が旧式のままでアメリカでさえ新たなドッキング方法が開発できていなかったので、かなり高度な技術を必要とすることから、経験のない日本にそんなことができるはずが無いと馬鹿にされてしまったそうです。
日本が新たなドッキング方法を提案
これまでのドッキングは「低衝撃型ドッキング」といって後方から秒速20cmのスピードでゆっくりと近づき、そのままの勢いでドッキングさせる方法だったのです。
しかし、まれに失敗して太陽光パネルを損傷させたり船内の空気が漏れたりしたことがあるくらい難しい作業だったそうです。
これがアメリカにとってよほどの信用が無い限り他国の補給船のドッキングなど危険過ぎて任せられないといったところなんでしょう。
そこで日本が提案したのが国際宇宙ステーションの後方からのドッキングではなく、下に潜る形で平行して飛ぶランデブーの状態から徐々に高度を上げて近づいていき、10メートルまで接近したところでロボットアームでキャプチャしてドッキングさせる方法です。
これなら宇宙ステーションを組み立てる方法と同じなので「低衝撃型ドッキング」よりかははるかに安全な方法と言えるわけです。
この方法であれば安全にドッキングできるはずと設計をしてアメリカに提案すると今度は思わぬことで提案を拒否されます。
日本は想定外の自体を考えていなかった
日本の物作りは世界的にも定評があり故障が少ないことで知られています。
日本人としてはアメリカやロシアが出来て日本ができないはずが無いと自信を持っていたはずです。
ところが日本はあることが欠けていたのです。
それは「想定外の出来事」です。
アメリカに言わせると宇宙では人命最優先にするために思いもよらぬことを想定すべきだというのです。
日本の考え方は無人の人工衛星を想定してのこと。
アメリカの考え方は国際宇宙ステーションは有人なので人命が第一に考えればもっと安全な対策が必要だと。
分かりやすく言えば、日本にしてみれば2重の安全設計があれば十分だというのが、アメリカは3重の安全設計が必要と言うことなのです。
たとえば、日本は補給船がドッキング可能な距離まで近づいて行くときの小型ロケットエンジンが故障した場合、予備のエンジンが稼働するシステムがあるので大丈夫とする主張に対して、アメリカは2つのエンジンが故障したら宇宙ステーションに衝突するかもしれない、なので3つ目のエンジンが稼働出来るようにとの主張なのです。
こうしてアメリカは日本に対して3重の安全対策が実行できない限り補給船とのドッキングを承認するわけにはいかないとなったのです。
これでNASAからの指摘はゆうに1000ヶ所は越えたといいます。
そんな膨大な指摘を受けた日本チームは一体どこまでやれば審査に通るのか?
と頭を抱えたそうです。
しかしここで諦めないのが日本の優秀な技術者でした。
万が一エンジンが2機とも故障したら補給船を捨てるという逆転の発想をしたのです。
設計段階でエンジンを3つも載せることは重量オーバーになって不可能なため途方に暮れた日本側は、もしエンジンが2つとも故障したら別のエンジンで補給船を軌道から外して犠牲にするという思い切った措置を採ることで難を逃れます。
こうしてようやくアメリカに認められて日本独自のドッキング方法が承認されたのです。
審査開始から6年経った2006年、やっと日本の努力と技術力が認められた瞬間です。
アメリカとの合同訓練が超厳しい
日本独自のドッキング方法が承認されて一段落した後待っていたのが、ものすごく厳しいアメリカとの合同訓練です。
なんと計200回にも上る訓練だったそうです。
エンジンの故障、センサーの故障、隕石の衝突等々、日本では考えられない想定とその回数に驚いたといいます。
とにかくあらゆる事態を想定して人命を守ることを最優先にしているのです。
日本の原発政策もこういった想定外の事態で人命が疎かにならないようにとの考え方があったら3.11の事故は起こらなかったのでは・・・と悔しい気持ちになります。
なにはともあれ、こおのとり補給船のドッキング構想から15年で打ち上げに成功し、ドッキングも見事無事に成功したのには感無量といったところでしょう。
現在1年に1度の割合で物資を国際宇宙ステーションへ届けられており、日本独自のドッキング方法が採用されているようです。
いずれにせよ油井さんが操作するロボットアームで無事ドッキングに成功することを祈っています。
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